酵素に関する豆知識

酵素に関する豆知識―酵素免疫生活

誤解により遅れた酵素研究

酵素は1833年、フランスの生化学者、アンセルム・ペイアンとジャン・ペルソーがデンプン分解物質を発見し、ジアスターゼと名付けましたが、このジアスターゼこそ、消化酵素であるアミラーゼです。

 

また、1836年、ドイツのシュワン教授は、胃液の中に肉を溶かす作用を持つ物質、すなわちたんぱく質分解酵素のプロテアーゼに属するペプシンを発見し、それ以降、様々な酵素が次々と発見されるようになります。

 

ちなみに「酵素」(エンザイム)という名前が使われるようになったのは、19世紀後半からです。エンザイムとは、ギリシャ語で「酵母のなかにあるもの」という意味であり、酵母とは糖類を発酵させてアルコールを作り出す微生物のことです。

 

酵素の本体がたんぱく質であると規定されたのは、アメリカ・コーネル大学のジェームズ・サムナー教授や、ロックフェラー研究所のジョン・ノースロップ博士らが、ウレアーゼやペプシン、トリプシン、キモトリプシンといった酵素を結晶として取り出した際、その結晶がたんぱく質であったためだとされています。

 

それにより彼らはノーベル化学賞を受賞しますが、このことが酵素栄養学の進歩を遅らせる原因になったと言われています。

 

確かに全ての酵素はたんぱく質を含んでいますが、触媒の働きをする酵素と運び屋の働きをするたんぱく質は別物であり、酵素研究の第一人者である鶴見隆史氏いわく、「酵素が「タンパク質に覆われた生命物質」であるところまでわかってきていますが、その生命力がどこから来るのか、いまだ謎のまま」なのです。

酵素と基質

私たちの体は、入ってきた食物の種類に応じ、その時々にふさわしい消化酵素を選び、必要な量だけ分泌しています。例えば、糖質分解酵素であるアミラーゼはたんぱく質を分解することは出来ませんし、脂質分解酵素であるリパーゼは糖質を分解することは出来ません。そしてこの特別な性質は「適応分泌の法則」と呼ばれています。

 

また、鍵と鍵穴の関係のように、酵素の活性化部分に特定の基質が入り、はまるようになっています。そのため、酵素は生きた鋳型といっても良く、すべて形が異なり、ぴったりと当てはまらなければ、化学反応は起こりません。

 

つまり、酵素は何種類もの化学反応をかけもちすることが不可能で、ひとつの酵素が触媒として働ける化学反応は、通常で一種類だけなのです。

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実は人間にもある「食物酵素胃」

食物酵素胃」とは、酵素が分泌されない胃のことを指します。しかし酵素が分泌されないならば、どうしてそのような胃が存在するのでしょうか?

 

実は「食物酵素胃」では、口から入ってきた食物そのものがもつ食物酵素が、食べ物の分解を促しているのです。つまり、「食物酵素胃」とは食べ物を事前に消化するための器官なのです。

例えばクジラは三つの胃を持っていると言われていますが、一つ目の胃では酵素が分泌されないため、何のためにその胃が存在するのか学者の間で論争になったとされています。例えばアザラシのような大きな動物が、クジラの胃の中に入ってきた場合、酵素が分泌されて分解されなければ、次の胃につながっている狭い通路を通ることは不可能なわけです。

しかし、死んだアザラシはアザラシ自身が持っている酵素(カテプシン)によって自らを溶かしていたことが判明したのだそうです。さらに、その時にクジラの胃の中にいる寄生原虫が酵素を出し、一緒に死骸をドロドロに溶かしていると言います。

そして、その次の胃でも同じように溶かしていき、三つめの胃で初めてクジラ自身の消化酵素が現れ、細かい分子にまでアザラシを消化し、小腸に送り込まれることになるのです。


クジラ以外にも、イルカ、牛、羊、鳥といった複数の胃を持つ動物はみな、最初の胃では酵素を分泌せず、適度な温度と水分を与えて、食べ物の中の酵素がよく働くように分解を促しているだけだと言われています。

ちなみに人間には胃が一つしかありませんが、実は胃の中に「食物酵素胃」の働きをする部位が存在しています。人間の胃には噴門部、胃底部、幽門部という箇所があるのですが、酵素研究の第一人者である鶴見隆史氏によれば、胃の上部にある噴門部と胃底部の部分が「食物酵素胃」の役割を担っているのだそうです。

鶴見隆史氏によれば、かみ砕かれ唾液と混ざって胃に入ってきた食べ物は、消化酵素が分泌されないこの噴門部と胃底部の部分に約1時間~1時間半とどまるのだと言います。そして、食物酵素によって分解され、やがて十二指腸につながる幽門部へと進んでいくことになるそうです。

ここで重要なのは、唾液腺にはアミラーゼしかなく、炭水化物にしか働かないため、たんぱく質や脂質は噴門部と胃底部で事前消化されていなければいけないということです。食物酵素がきちんと含まれている生の食材を摂っていれば、食物酵素が食べ物を分解し、事前消化してくれます。

しかしここで生じる大きな問題のひとつは、加工食品など加熱によって酵素が破壊された食べ物ばかりを人間が食べるようになってしまったために、食物酵素が働かず、事前消化されないまま幽門部へと送られ、その結果、大量の消化酵素が使われてしまうということです。

1日のうちに作られる量が決まっている体内酵素の多くが消化酵素として使われるようになると、代謝酵素の方になかなか回らなくなるため、生命維持のための代謝に悪影響が出始めるようになります。

 

また、酵素の力で消化しきれず、食べ物が消化不良の状態のまま腸内に居残るようになると、食べ物は次第に腐敗や異常発酵、酸敗といった現象を起こし、それによって免疫力の低下や大腸がんなど様々な弊害を生じさせてしまいます。さらに、消化不良はアレルギーの症状を引き起こすと言われています。

したがって、食物酵素胃できちんと事前消化されるよう、食物酵素が豊富に含まれた新鮮な食物を食べることは非常に大切なのです。

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